bibliomanifesutus microscopium II

セメン樽に顕微鏡

一気読み3冊

灰色に煙るセーヌ川が梨地織りの空と岸辺とあいまって、なめらかで無気力な世界を織りあげていた。退屈と悲しみを押しつぶすようなこういう天気がポールは好きだった。

表の顔と裏の顔がバトンを受け渡しして最後まで走り抜けるリレー。血みどろの暴力も背後関係もトンデモナイ振り幅で飛躍していくのになぜだか強烈にリアリティを持ってる。同著者の『コウノトリの道』(→Amazon.co.jp)もそうだった。そしてどこか音楽的。

善き人も、もっと善き人も、もっともっと善き人さえも、今日の世界の狂気によって汚染され得るのだ。

未完成長編のシノプシス。完成した小説で生き生きとした人間像によって読みたかったと心から思う一方、ヘタにそのへんの作家に「作品」に仕上げて貰わなくてほんとによかった。なんとなく連想したのは映画『ウディ・アレンの重罪と軽罪』(→Amazon.co.jp)。物語が似てるとかではなくて、『今日の世界の狂気』に対する無力、そして罪の意識の抱き方に通底するものを感じたのだと思う。

  • ギジェルモ・マルティネス『オックスフォード連続殺人』→Amazon.co.jp
「彼、成功したらしいわ」彼女自身まだ信じられないかのように教授は私に言った。私の困惑したような顔を見てさらに説明する。「アンドリュー・ワイルズよ、分かる?」

実際に起きた出来事とか実在の理論や小説と、作者が創り出した虚構とが、心地よく地続き。