bibliomanifesutus microscopium II

セメン樽に顕微鏡

正月フォビア

クリスマスといえば何日も前から気が遠くなるほどわくわくして、どこまでも潜り込んでいきたいくらい好きだったのに、正月は大嫌いだった。クリスマスには世界があるけど正月には家族しかない。誰も彼もみんな小さくて四角い自分のファミリーワールドにこもって出てこないし、テレビは悪趣味な和風もどきの音楽を流してしかも食べるものまで勝手に決められて(別に嫌いじゃないけどおせち料理自体は)。最悪なのは親族で集まっていとこたち全員1曲ずつピアノを弾かされること。虫酸が走る。そんなんで過ごすと3日目には本当に遠くに脱走したくなって、散歩に出かけるのだった。散歩は瞑想するなら歩きが、遠くに行くなら自転車がいい。だから正月の散歩は自転車で、冷たい曇り空の下をどこまでもどこまでも走る。誰もいない道の両側の家はみなちんまりと立てこもっていて、もうほんとうにこのまま世界の果てまで行きたいけどそういえば島国だったっけ、この日本中の閉じた家族モードは終わりがないんだろうか、なんて思いながら走っていくと、静けさと寒さの中ですっとなにかが抜けて、やっと、人類であり人間である自分が戻ってくるのだった。